登山当日、私たちは急いで朝のスケジュールをこなしバスに向かっていた。茶臼岳(那須岳)はもともと人気のある山なのだが、さらに夏休み最後の週末ともあり、駐車場が混雑するまえに到着したかったのだ。
バスの中では登山やキャンプの歌などボーイスカウトっぽい歌で盛り上がり、次第にドラえもんや推しの子のアイドル、強風オールバックと、もはやカラオケ大会かと言わんばかりの盛り上がりで現地に到着した。
バス専用の駐車場が1台だけ空いており滑り込むように駐車した後、一息つく時間もなくトイレを済ませ、各組揃った順に登山開始。私は最後尾に付きながら遅れた子をサポートする係りとなった。
何組かがスタートしたあと2つの組が残っていた。ふと見てみるとY君の組も残っている。
あれ?バス酔いしちゃったのかな?
と思っていたらY君の組もスタート。
「おっ、大丈夫そうだ。」そう思っているのもつかの間、最終組がスタートするので私も後ろに付きながら登り始めた。
どこの山でも感じるのだが、登り始めが1番つらい。体が慣れてないことや斜面が急なことが多いのだと思う。子供たち用の予備の水を背負ったリュックが岩のように重く感じ「まるで修行だな」と苦笑いしながら前を行く組について行く。
登り始めると親子連れやご年配の方、海外の方など多くの方が登っていく。そして早くも下山してくる方も見える。この時間に下山してくるとなると、いったい何時から登り始めたのだろう、などと考えながら下山者を眺めていると見たことのある服装の方が上から降りて来ていた。
あっ、うちのリーダーだ、Y君も一緒に歩いている、どうしたのかな、忘れ物かな?
話を聞いてみると、体調が悪く一旦出発地点にある休憩所まで戻るとのこと。
Y君も本人もあまり元気がなさそう。
最後尾担当としてY君を預かって一緒に下山することに。幸いにも10分くらいしか登っていないため、すぐに下山できそうだった。
体調が悪くてバスに酔いやすかったのか?酔いが回復していないだけなのか、いろいろなことを考えながら下山する。本人に話をしてみても、声に力がない。
休憩所で少し休み、とりあえずトイレにも行っておいで、と案内した。
私が椅子に座って待っていると、顔も白く、唇も真っ青で調子が悪そうな他団体の小学生くらいの子が引率者らしき方と下山してきて、迎えに来ていた保護者の方に引き渡されていた。
Y君はどうだろうか、伴走車があるから連絡して宿舎に戻るべきか。ここでしばらく様子を見るべきか、判断が難しい所。
トイレから戻ったY君に話を聞いてみると、もうバス酔いは良くなったとのこと。そして登りたいとのこと。
しかし、どのくらい回復したのだろうか?登ったところで2人だけでこの山を登りきれるだろうか?様子を見ながら登ってみてダメなら引き返すのもありか、などと色々なことを考えていると「登ってみんなに追いつきたい」と、Y君が言ったので注意をはらいながらチャレンジしてみようと、そう決断した。
組の仲間との時間差は25分くらい。体調にもよるが無理せず休憩しながら登って、山頂での食事休憩のときに追いつければいいほうか、そんなことを考えているとY君はぴょんぴょんと岩の上を飛びながら登っていた。
おっ、体調もだいぶ回復しているんだな。
しかし、少しすると休憩して水を飲みたい、ということで小休憩。
他愛もない話をしながら、息が整うのを見て2分程度ですぐに出発。なるべく息が上がらない程度のペースで登っていく。
しばらくすると
ここの景色ジュラシックパークみたい、あっちの方にも登っている人がいる。
と、少しずつY君の口数が増えてきた。と同時に足取りもだいぶ軽くなってきたようだ。
「みんなに追いつけるかな?」
といったことも口から出てきて、だいぶ体調が良くなったように感じた。
長い休憩をすると体が重くなるので、疲れたら2分だけ休憩してまた進んでいけば、きっと追いつけるよ。
そんな会話をしながら登ってく。
どのくらい登っただろうか、まだまだ山頂も見えないし、仲間たちの姿も見えない。
手元にある資料を見るともう少しでヤッホー地点のようである。
大きな声で叫ぶと、向かい側にある山肌に反射して気持ちよく返ってくるようだ。
その地点に近づくとヤッホー、ヤッホーと聞こえてくる。
反対側の山を登っている方もヤッホーしているので、ヤッホーだらけである。
するとYくんが「あっ、これリーダーの声だ!」と言う。
いやいやまさか、そんなようには聞こえなかった。
ほらまた!
うーん、私にはそんなようにも違うようにも聞こえる。
もう少し登ってみれば、何か分かるかも。そんな期待を胸に山を登っていく。
しばらく上り開けた場所に出ると、上の方にカブ隊の列が登っているのが見えた!
あっ、あれカブ隊だよ!組のみんなもいるよ!
ほんとうだ!こんなに早く見えるとは。
喜びでY君もヤッホーするが、こちらは2名だけなので、なかなか気づいてもらえない。
すぐ先に山小屋があるから、きっとそこで休憩するはず、うまくすれば追いつけるよ。
そう話しながら、急ぎすぎずにY君と登っていく。
ところどころでヤッホーしてみると、山小屋から「○○くーん!がんばれー!」とYくんの名前を仲間が叫んでくれた!
自分の名前が山にこだまするのを聞いてY君は大きく手を振って仲間に反応を返す。
よしよし、もう少しで茶屋だ、追いつくぞ!
と思いながらも、遠くに見える山小屋まではなかなかの距離がある。
無理せず小休憩を挟みながら山小屋を目指す。
もう少しで山小屋に到着しそうだというちょうどその時、山小屋から組の仲間が出発するのが見えた。
「Y君、無理せず休憩しながら登ってきてー」と仲間からの声が聞こえた。
Y君は急いで登りたがっていたが、ここまで少し無理しながら登っていたため慌てず小休憩。
急ぎたい気持ちをぐっと抑えて3分のおやつタイムを。
そして休みすぎずに出発。
ここからは足取りが軽かった。もうすぐ目の前に仲間がいるからね!
いくつかの他の組をパスしながら、どんどん登る。
こうやって見ると、やはり結構なスピードで登ってきたのだなと感じる。
足場に気をつけならが更に上る、すると組の仲間も近づいてきた!
そしてついに、組の仲間に追いつくことができた!やったね!ぱちぱちぱち!
仲間と再会を喜び合いながら、一緒に登り始めるY君、良かった!
さらに、Y君達は無事に山頂まで辿り着き、無事に下山できました!
今回は同行したY君の話でしたが、すべてのスカウトにドラマがあったと思います。
スカウトの心に刻まれていると思いますので、いろいろ聞いてみるのも良いかもですね!
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